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元喫煙者の声で感情に訴える ~ニューヨーク市の禁煙キャンペーン

公開日:2014年4月14日

米ニューヨーク市は2014年3月4日から4月1日まで、ニューヨーク州と協力し、禁煙補助剤のニコチンパッチとニコチン入りガムを無料配布する禁煙キャンペーンを実施した。期間中はWebサイトやFacebookで禁煙に役立つ情報を提供すると同時に、たばことの関係が知られる病気が原因で指や足を失った元喫煙者を起用したテレビコマーシャルを展開。2006年の開始から9回目を迎えたこのキャンペーンは、これまで約30万人を支援してきたという。

禁煙補助剤を無料提供

今回のキャンペーンは、禁煙希望者のうち有資格者に、最大4週間分のニコチンパッチとニコチンガム、またはそのうちいずれかを無料で配布した。禁煙の方法やコツをまとめた小冊子や、ニューヨーク州の禁煙ヘルプラインによる電話サポートも提供。参加申し込みは、ニューヨーク市の非緊急行政サービス用無料電話のダイヤル311と、ニューヨーク州のWebサイト「ニューヨーク州スモーカーズ・クイットライン(New York State Smokers’ Quitline)」で受け付けた。

元喫煙者のマリーさんを起用したキャンペーン広告の一部。切断で短くなった指を見せて、「喫煙が原因で、約20の切断術を受けました」とマリーさん自身が語っている。

元喫煙者のマリーさんを起用したキャンペーン広告の一部。切断で短くなった指を見せて、「喫煙が原因で、約20ヵ所の切断手術を受けました」とマリーさん自身が語っている。

ニューヨーク市保健精神衛生局によると、同市の成人喫煙人口は約100万人。喫煙は予防可能な死亡原因の第一位であり、禁煙によって心疾患やがんなどの疾患を予防できれば、生活の質を向上できるだけでなく、労働生産性の低下を防ぎ、総医療費の削減も可能になる。ニコチン依存症になると、たばこをやめたくてもやめるのが難しくなるが、適切なカウンセリングと禁煙補助剤による治療を続ければ、禁煙成功率は2倍に上昇するという。

健康増進を市政の優先項目に

ニューヨーク市は、マイケル・ブルームバーグ前市長時代に市民の健康増進を市政の焦点の1つに位置づけ、「テイク・ケア・ニューヨーク(Take Care New York)」(「Take Care」は「体に気をつけよう」「お元気で」などという意味)と呼ばれる包括的健康政策を推進した。「運動や健康的食生活の推進」「HIVやそのほかの性感染症の感染拡大防止」を含む10の優先領域のうちの1つが禁煙だ。

ニューヨーク市は喫煙に厳しい都市として知られ、ブルームバーク前市長時代に、ほとんどのオフィスや飲食店、公園、ビーチなどが禁煙になった。2013年10月には、たばこを買える年齢を18歳から21歳に引き上げる条例案が市議会で可決されており、2014年5月の施行が予定されている。

WebサイトやFacebookで情報提供

ニューヨーク市の禁煙キャンペーンの大きな柱は、WebサイトやFacebookを使った禁煙に関する情報や支援の提供だ。

Webサイト「NYCクイッツ!(NYC Quits!)」では、禁煙成功者の体験談をはじめ、禁煙のやり方やコツ、禁煙のための支援を受けられるプログラムやクリニックを紹介している。

喫煙者の禁煙を支援するニューヨーク市のWebサイト「NYCクイッツ!(NYC Quits!)」

喫煙者の禁煙を支援するニューヨーク市のWebサイト「NYCクイッツ!(NYC Quits!)」

禁煙成功者の体験談は、喫煙歴、禁煙を決意した理由、どうやってやめたのか、苦労したこと・難しかったこと、そして禁煙したい人や禁煙に取り組んでいる人へのアドバイスなどを、成功者自身の言葉で顔写真入りで掲載している。自分の健康や家族のため、あるいは節約のためにやめたという人がいれば、そのやり方も、ニコチンパッチやカウンセリングの利用、生活習慣の見直しなど、人によってさまざまだ。

喫煙と禁煙を10年間繰り返していたという女性は、「たばこを買うたびに、たばこ代と同額を瓶に入れてためるようにした。瓶の中のお金が増えるたびに、『たばこを買わなければ、この倍のお金がたまっていたはず』と考えるようになった。禁煙してからも毎週30ドルをためており、いまではそのお金を、たばこ以外のもっと有意義なことに使っている」と、体験談を語っている。

2009年には、ニューヨーク市保健精神衛生局がFacebookページ「NYCクイッツ・スモーキング-私がたばこをやめた理由(NYC Quits Smoking-I Quit Because)」を開設した。このページでは、禁煙のための情報を提供するとともに、禁煙成功者がその体験談を共有し、活発な意見交換が行われている。

キャンペーン期間中は、元喫煙者で同キャンペーンのスポークスパーソンを務めたマリーさんも会話に参加し、コメントの質問や疑問に答えた。また、「ニコチンパッチは役に立たない」「どうしても、やめられない」といった否定的、あるいは消極的なコメントに対しては、ページ運営者がタイムリーに対応し、「なぜ役に立たないと思うのですか?」などと返答し、会話を続ける努力を行った。

ニューヨーク市保健精神衛生局のFacebookページ「NYCクイッツ・スモーキング-私がたばこをやめた理由(NYC Quits Smoking-I Quit Because)」

ニューヨーク市保健精神衛生局のFacebookページ「NYCクイッツ・スモーキング-私がたばこをやめた理由(NYC Quits Smoking-I Quit Because)」

成人の喫煙率が低下

ニューヨーク市はテイク・ケア・ニューヨークの進捗状況を定期的に報告し、優先領域の見直しを行っている。禁煙に関しては、たばこ税の引き上げや喫煙場所の制限、各種キャンペーンなどの結果、成人の喫煙率が2007年の16.9%から2012年には15.5%に低下し、2002年比では28%低下した。

連邦政府の取り組み

米連邦政府は2012年3月、政府が出資する初の全米規模の禁煙キャンペーンを開始した。このキャンペーンを当時から今も率いるのが、2002年から2009年までニューヨーク市保健精神衛生局の責任者を務め、現在は米疾病対策予防センター(CDC)所長のトーマス・フリーデン博士だ。

連邦政府のキャンペーンもニューヨーク市の場合と同様に、長年の喫煙や受動喫煙が原因で心臓や肺などの病気を発症した複数の元喫煙者が、たばこの健康被害を訴える広告を印刷媒体やテレビで行っている。

手術によって指や足を切断したり、大きな障害が残り体の動きや声を失ったりして今も闘病を続ける実在の人物の映像やそのメッセージは、訴える力が大きい一方で衝撃的なものも多い。当初は子供に悪影響を与えるという批判もあったが、CDCはそれに対し、「子供の目に触れないように、できるだけの配慮をしている。子供向け番組中には広告を流さない」と回答。喫煙以外の原因で同じような病気や障害と闘う人にとって好ましくないという指摘に対しては、「この広告は、喫煙によって起こり得る病気や障害を示すことで、喫煙に起因するダメージについて正確な情報を提供することが狙い。広告に登場する元喫煙者は、自分の経験が他人に役立つことを願って個人的な経験を語っている」と反論。「最も効果的な禁煙広告は、長期的な喫煙による健康リスクと感情面の影響を表現し、喫煙を促し、喫煙方法について情報を提供するものだ」と述べ、その効果を強調している。

CDCによると、2012年のキャンペーンの結果、160万人以上のアメリカ人が禁煙に挑戦し、そのうち10万人以上が二度と喫煙しないと見積もられている。また、推定600万人の非喫煙者が、喫煙の危険について友人や家族と話し合ったという。

CDCは2013年、3月4日から6月23日までの16週間に渡り同様のキャンペーンを実施した。期間中、禁煙希望者による電話の問い合わせ件数は75%増加し、Webサイトのユニーク訪問者数は38倍に増加したという。2013年度はキャンペーンに4800万ドルを投資したが、その費用対効果は高いとCDCは評価している。


寄稿者紹介

鶏内 智子(かいち ともこ)
フリーランスライター。ニューヨークを拠点に、ハイテク、メディア、ヘルスケア業界を中心に取材と記事執筆活動を行う。

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