広報入門
新任担当者に必要な基礎知識と、 ITを活用したPRのノウハウをコラム形式で公開。
■報道協定に関わるある問題

つい最近のことだが、記者クラブへの対応に関する興味深い実例を見聞したので、読者が今後、記者クラブへ関わる際の教訓として読んでほしい。
私の知っているある会社が、少し前に新商品の記者発表会を東京都内で実施した。
広報担当者も少人数でノウハウも充実しておらず、準備作業をPR会社に委託した。メディアリストの作成、案内状の配信、進行台本の作成、会場の設定、開催直前の招致活動、プレスキットの製作とまとめ等の外注の容易な作業だ。
事前の準備は滞りなく終了し、発表会の開催にこぎつけた。
開会後、台本に即して発表会は滞りなく進行、あいさつ、新商品の説明、質疑応答と続く典型的な記者発表会となり無事終了した。
記者発表会とあわせて、関係業界を担当する省庁の2つの記者クラブにニュースリリースの投げ込みを計画していた。
発表会と同時刻に実施であり、PR会社の担当から投げ込みも問題なく完了との報告が届き、“万事めでたく終了”と関係者はほっとしながら思い込んでいた。
ところが次の朝、投げ込みを実施したはずの記者クラブの一つから、資料配布か行われなかったことを指摘する連絡が会社の広報に入った。
あわてて確認を行ったところ、何と同じ省庁にある別の記者クラブの一つに、ニュースリリースを配布したことがわかったのである。
実はこの省庁、かつては2つあった省庁が統合されて一つになり、それぞれの記者クラブがそのまま存続したため、現在4つの記者クラブが並存していることが判明した。
何ということはない。そのような事情を知らず、記者クラブの名称も十分に確認しないままに投げ込みに行き、記者クラブの受付も投函にきた会社名を確認することなく認めたため発生した単純なミスである。
当初予定していたクラブの受付に事情を説明し、了解を得て一日遅れだが、再度、投函したという連絡が、ミスのお詫びとともにPR会社から連絡が入った。関係者の間にこれにて一件落着という雰囲気が流れた。
■問題の本質をどうとらえるのか?
さて、幸い大きな問題にならずに済んだが、実はこれは広報にとっては重大な問題なのだ。
単に一日遅れで投函できたからよいというものではなく、問題の本質はもっと深刻である。
“報道協定”という言葉がある。誘拐事件などの時、被害者の安全を考慮し報道機関がいっせいに報道を見合わせるというのも報道協定である。
実は記者クラブへの発表の申し込みも、当該会社と記者クラブ加盟会社の間における報道協定の締結を意味するのだ。今回の問題は、報道協定の違反が問われかねないケースなのである。
発表の申し込みを記者クラブの幹事会社が受けつけると、会社側は約束の日時までその情報をメディアに一切公表することはできない。反対に、メディアの側は、会社から発表があるまで、いずこからか情報を得ても記事化することはできない。これが、”しばり”である。(もっとも、社長人事とか、重要な企業提携とか、この”しばり”の及ばないケースもあるが、この説明は別の機会とする)
報道協定を破った恐れがあると認定されるケースは記者クラブにとって大問題であり、それについて緊急に総会を開いてクラブとしての対応を決める。
加盟メディアが破った場合は、資格停止や除名、会社が破った場合には始末書や出入り禁止などの決定が下されることがある。記者クラブへの出入り禁止は、会社にとって広報活動上、重大な支障が発生する。
理由はともあれ、約束の日時にニュースリリースの投函をしなかったというのは、報道協定の違反を問われる恐れがある問題なのだ。問題の本質はもっと深刻というのは、そのような意味がある。
■広報担当が気をつけねばならないこと
報道協定といえば、有力なメディアを1社だけに絞り、こっそりと取材を設定する“リーク”という方法がある。
1社に独占的に提供するかわりに、大きな扱いを期待する方法であるが、これも報道協定の一つといえよう。もっとも、上場企業の場合、会社情報の選択開示の禁止という情報開示の規定に抵触する恐れがある。報道協定とは別の観点で実施については問題があり、安易な運用は慎むべきだろう。
私が見聞した今回のケースは、幸いにも大きな問題にはならなかった。記者クラブ側からは再発防止に向けた注意を受けた程度で済んだ。最近はルールの運用も、クラブによって多様化しており、緩くなってきた面も感じられる。ただ、企業の広報としては、細心の注意を心がけるべきだろう。
神谷町の広報マン 愛称:マーベリック 外資系IT企業で広報マン17年、PR系企業におけるコンサルタント生活3年を経て、現在は神谷町にある金融会社にて広報を担当。広報マンとして20年余を過ごす。広報の仕事と、赤ワイン、クルマ、そして年に数回に過ごす軽井沢での静かな生活をこよなく愛する。独自の視点から広報を語り、広報の仕事に携わる後進の成長に貢献したいと考えている。
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