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大型薬自主回収にみる製薬会社の危機管理

公開日:2004年12月2日

 9月30日早朝、製薬業界と金融市場に激震が走った。製薬大手メルクが、心臓発作などの危険性を高める可能性があるとして、関節炎などの治療薬「バイオックス(Vioxx)」の販売中止と、全世界での自主回収を発表したためだ。バイオックスは年間25億ドルを売上げ、米国だけで患者が2000万人に達するという大型薬。医師や患者への副作用警告に留まらず、即座に自主回収に踏み切ったとする同社の対応は、「製薬会社の危機管理の見本」として各方面から高い評価を得た。
―自主回収までの道のり
 バイオックス服用による心血管リスク上昇は、バイオックスが発売された1999年当時から問題視されていた。メルクも2000年6月、「ナプロキセン」と呼ばれる抗炎症薬と比較した臨床試験で、バイオックス投与群で心血管疾患発症の危険性が高かったとの結果をFDAに報告。だが、発症率の違いはナプロキセンに心血管保護効果があるためであるとして、バイオックスと心血管リスク上昇の因果関係を否定した。その後も、外部研究者らが危険性調査に目的を絞った試験の実施を要求してきたが、メルクは同じ主張を繰り返してこれらをかわして来た。

 メルクによると、自主回収は「アプルーブ」と呼ばれる臨床試験の結果、バイオックス投与群で偽薬投与群に比べて心血管障害の危険性を高める兆候が確認されたことがきっかけだった。FDAなどの資料によると、メルク研究開発部門の責任者が、アプルーブ関係者から試験中止とバイオックス投与中止勧告を受けたのが9月23日夕刻。翌日午前にはギルマーチン最高経営責任者(CEO)に報告され、研究員らがアプルーブ試験結果の分析を開始、勧告内容の正当性を確認した。その後、経営陣が外部専門家らの意見を聞きながら対応を協議し、27日に販売中止を決定。翌28日にメルク取締役会が全会一致でこれを承認し、FDAに報告。決定は危機管理担当者とPR担当者らに順次通達され、30日午前9時、ギルマーチンCEOが会見を行い、販売中止と自主回収を発表した。

―危機管理の見本
 メルクの自主回収の発表は当初、PR関係者らから「危機管理の見本」として高く評価された。危険性の兆候が報告されてから発表まで1週間という迅速な対応はもちろんのこと、この間に外部に情報が漏れた形跡がほとんどなかったためだ。仮に外部に情報が漏れ、これが報道されたり、またFDAなどから回収を命令されたりといった事態に発展すると、すでに自主回収に向けて準備を進めていたとはいえ、企業イメージが被るダメージは一層大きくなっていたはずだ。

 メルクは、近くFDA承認が期待される同じ種類の新薬を抱えており、新薬販売への影響を最小限に抑える必要があった。発表の朝、ギルマーチンCEOが自らテレビ画面に登場し、「患者のことを最優先して自主回収に踏み切った」と語った効果は小さくない。また、ホームページの一番目立つ場所にバイオックス関連コーナーを開設し、CEOや研究開発責任者のメッセージ、背景説明、試験結果、患者への払い戻し案内といった情報提供にも努めている。

―先手必勝のPR
 メルクの発表後、11月には社内文書やFDA内部文書などから、メルクが数年前から危険性を認識していたにもかかわらず、関係者に圧力をかけるなどして、それを隠匿していたとの疑いが浮上。予期されていたことではあるが、株価は9月から40%も下落し、バイオックスに関する訴訟件数は10月末時点で375件に達した。米司法省や米証券取引委員会(SEC)も調査を開始するなど、メルクにとって苦しい状況が続いている。

 内部文書漏洩に先立つ10月末、メルクは訴訟に備えて自発的に準備した資料の一部が不当に持ち出され、「文脈を無視して誤って解釈される可能性がある」との警告を発表し、報道に先手を打って防衛線をはっていた。また、医学専門家による批判には、過去の試験結果を引用して反論。一般消費者には、新聞広告などを利用し「危険性判明後は正しい行動を迅速にとった」などとする自らの正当性を訴えるメッセージを発信している。

一方、バイオックスと同種の治療薬を販売するファイザーは、メルクの販売中止の翌日には、ファイザー製品には心臓疾患を起こす危険性を示す兆候はないと発表。また、危険性の有無を調査するために大規模臨床試験実施の方針を新たに打ち出すなど、飛び火を防ぐためのPR活動に力を入れている。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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