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正念場を迎えた製薬業界のPR

公開日:2004年8月5日

ボストンで開催された米民主党大会は7月28日、ケリー上院議員を大統領候補に指名し、11月の大統領選に向けた選挙活動がいよいよ本格化する。選挙戦の争点の一つは、米国のヘルスケア改革。保険料の高騰を背景に、企業が従業員の福利厚生予算をカット。個人負担の増加が家計を圧迫し、医療保険を失う人も少なくない。政府が支給する高齢者および低所得者向けプログラムも、苦しい運営を余儀なくされている。そこで、非難の矛先を向けられたのが製薬業界だ。処方箋薬は一般的に、カナダなど、海外の購入価格は米国よりも格段に安いとされている。これに着目し、処方箋薬の逆輸入合法化を支持する州政府や個人と、安全性や研究開発費の枯渇を危惧してこれに反対する製薬業界が、真っ向から対立する構図が成り立った。有名人やスポーツ選手をスポークスマンに採用し、派手さを増す広告も、価格高騰の要因としてやり玉に挙げられている。守りの姿勢に入った製薬業界、悪役イメージからの回復なるか――。
―増えるDTC広告
 DTC(Direct-to-Consumer)広告とは、一般消費者向け処方箋薬の広告である。米会計検査院(GAO)によると、製薬会社がDTC広告に費やした金額は2001年だけで27億ドルといわれ、テレビ放送のプライムタイムには必ずと言っていいほどDTCコマーシャル(CM)が流されるなど、今では一般的になっている。

 米国では1997年、FDA(米食品医薬品局)がDTC広告に関するガイドラインを作成し、事実上の広告解禁となった。FDAはDTC広告を目的別に3つに分類しており、このうち最も一般的なのが「製品紹介広告」である。従来のガイドラインは製品紹介広告について、医薬品の効能効果、副作用、危険性など、重要と思われる情報の明示を義務付けていた。しかし、新ガイドラインではCMの時間制約などを考慮して、それら情報の入手先さえ明示すれば、実際に広告で開示する情報は簡単(概要)でいいとした。これを受け、今では多くのDTC広告が説明を概要レベルにとどめ、詳しい情報の入手先としてウェブサイトのアドレス、消費者問い合わせ電話番号などを紹介。テレビCMの場合には、最後に必ずといっていいほど「詳しくは医者に相談を」というナレーションが入る。

―広告費が薬価上昇に影響?
 こうした広告には、一般消費者の病気に対する認識を高め、治療の動機付けになるとする肯定的な意見がある一方、消費者団体や議会を中心に、医療費や薬価高騰を加速するといった否定的な意見が根強い。

FDAが医療従事者を対象に1999年と2002年に実施した調査では、DTC広告の利点として下記が挙げられた(表1参照):

表1

回答者の割合(%) 回答者の割合(%)
患者と医者間により良い議論を推進する 53
治療法に関する患者の知識を高める 42
情報開示/啓蒙 10
患者が処方箋薬を使う率が高まる 9
新たな疾患の発見につながる 6
その他 3
患者がより重大な症状に関心を持つ 2

出典:FDA

否定的な意見としては、ブランド薬と同等の効果を持った安価な薬を処方し難い、本来研究開発費に使われるべき予算が広告に使われている、広告予算が薬価に反映されている、などである。これに対し、業界団体のPhRMA(米国製薬工業協会)は、「ヘルスケアコスト1ドルあたりに占める処方箋薬コストは9セントにすぎない」として、その影響を否定している。

新ガイドラインについては、概要の記述が専門的になり過ぎて一般消費者には理解が難しい、文字が小さすぎて読み難い、といった批判も出された。そこでFDAは今年2月、処方箋薬の危険性全てを紹介するのではなく、特に深刻なものに焦点をおき、わかりやすい言葉や様式で伝達することなどを定めた、新しいガイドラインのドラフト2件を発表した。DTC広告規制を巡る議論は、今後も沸騰の様相だ。

―製薬業界の反撃
 処方箋薬の海外からの逆輸入に関しては、当初はこれに反対姿勢だった政府機関が条件付きでこれを認める方向に向かいつつあり、製薬業界を取り巻く情勢は厳しさを増している。輸入合法派の主張は、新薬の高価な研究開発費を、米国民だけが高い薬価を払って負担するのは不公平というもので、DTC広告議論がこれに油を注いでいる。また、最近では、製薬会社が新薬開発段階における不利な情報を意図的に隠している、といった非難も出ており、風当たりは一層厳しくなっている。

 こうした中、製薬業界は発展途上国の医薬品流通や、医療保険非加入者や低所得者向け援助を目的としたプログラムを拡大するなどして、イメージの回復に取り組んでいる。例えば、製薬大手ファイザーは7月、全米4300万人の医療保険非加入者に対し、同社の医薬品を低価格で提供するプログラムを発表した。また、バイオテク業界団体「BIO」は、開発途上国の疾病対策を推進する非営利組織を設立し、これら国々への医薬品流通支援に乗り出した。こうしたキャンペーンの成果がどう出るか、PR専門家の能力が試されようとしている。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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