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歴史に学び、経験に学ばない危機管理

公開日:2003年12月4日

 同時多発テロ、会計不祥事、大停電、サイバーテロ――。これらは、米企業が最近2年間に遭遇した危機のほんの数例である。被害が直接的、間接的の違いはあるにせよ、規模の大小に関わらず全ての企業が何らかの影響を受けたといっていい。問題企業として直接名指しを受けなかった企業も、業界全体または米企業全体に向けられた不信感の煽りを受けた。ところが、こうした数々の危機から得た教訓を、その後の危機管理に継続的に生かした企業は意外に少ないようだ。
形骸化した危機管理
 情報技術(IT)が社会や経済に及ぼす影響を調査・研究するシンクタンク、国際社会経済研究所(東京)は11月末、情報化時代の緊急時コミュニケーション管理をテーマに、ニューヨークでパネル討論会を開催した。パネルでは、危機発生時の事実関係の早期把握と、利害関係者への迅速かつ正確な情報伝達がポイントのひとつとして強調された。パネルを聞くために集まった企業の経営陣やPR担当者であれば、危機発生時の初動対応の基本として、繰り返し耳にして来た言葉だろう。ところが、これらを実践している企業は意外に少ないという。

PR会社大手エーデルマン・パブリック・リレーションズ・ワールドワイドのマイケル・モーリー副会長はこう指摘する。

「確かに2001年のテロの後、多くの企業で危機管理体制の見直しが進み、投資もなされてきた。ただ、一部の大手企業を除いて、これらを継続的に実施している企業は少ない」

つまり、危機管理の枠組みは作ったが、シミュレーションを通じた実現可能性や効果の検証、トレーニング、業務内容や社内のシステム変更などに伴う体制の見直しなど、恒常的に必要とされる取り組みは、ないがしろにされているという。

例えば、危機発生時の利害関係者との緊急連絡。モーリー氏によると、緊急連絡が必要なのは従業員全員と、会社の規模によって社外の関係者が2000~5000人。ところが、連絡先を随時点検し、最新情報を管理している企業は少ないという。社外で誰に、どの手段を使って連絡をとるべきかに関する情報は、日常業務を通じてすでに社内に蓄積されている。モーリー氏によると、これらの情報を危機管理の観点から一括管理するのは決して難しいことではないし、多大な稼動を要することでもない。コストや技術や障害でないとすると、危機管理に対する企業の緊急度や意識の低さに問題があるようだ。

インターネットの活用
 こうした意識の低さを多少なりとも補完し、利害関係者とのコミュニケーション手段ともなるのがインターネットだろう。インターネットは危機対応時マニュアルの参照窓口に、危機発生後には不特定多数へのメッセージの発信窓口となる。情報にアクセス権限を設けておけば、特定の社員または関係者にだけ指示を発信することも可能だ。また、危機発生後のマスコミ論調や世論を把握する手段としても効果がある。ただし、これも継続的な情報の更新や体制の見直し、トレーニングを怠れば、無用の長物になりかねない。

危機をチャンスに
 「企業の評価を決めるのは、危機そのものではなく、危機に面した際の企業の対応」というのは、ロビン・コーン・アンド・カンパニーのコーン社長だ。企業の評価は「何が起こったのか」という事実関係ではなく、世論によって決まる。その世論は、一般大衆の感情によって形成されるという。

事実関係が何であれ、情報隠蔽、責任回避、企業の利益を優先するような言動は、状況の悪化を招く。特に「ノー・コメント(コメント拒否)」は、米国では自らの非を認めることと同じだという。企業が自社に不利な情報を隠したり認めたりしないのは一般的に経済的損失を避けるためだが、コーン氏は過去の例を見る限り、企業はほぼ例外なく最終的に過ちを認めることになると指摘する。責任を逃れるために色々な工作をしただけ、余計に膨れ上がった莫大な代償を支払うことになるという。

危機に対峙して、一般消費者の信頼を勝ち取った企業もある。その一例が、日用雑貨および医薬品大手のジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)だ。今から約20年前、中西部シカゴで7人が原因不明で無くなる事件が起きた。その後の調べで7人は、同社の人気風邪薬「タイラノール」を服用していたことが判明、全米がパニックに陥った。これを受けてJ&Jは、タイラノールと死亡の因果関係が証明されていないにも関わらず、全米で流通されるタイラノール3100万箱、市販価格にして1億ドル分を即座に回収した。その後、同社は米国民から「自社の利益を投げ出して国民の健康を優先した」と言われるようになり、「グッドガイ(正義の味方)」の呼び名を得るに至った。この時のJ&JのPR戦略は、今でも危機対応のベスト・プラクティスとされている。

サイバー時代の危機管理
 ITの普及は企業活動に多大な恩恵をもたらすと同時に、新たな危機ももたらした。そのひとつが悪質なハッカーに代表される、悪意を持った企業システムへの侵入である。ハッカーによる情報システムの破壊、内部情報の盗難、顧客情報の盗難といった事件は、ほぼ日常的に報道されるようになった。プライスウォーターハウス・クーパーズが株式公開前の急成長企業402社の最高経営責任者(CEO)を対象に調査を行ったところ、コンピュータ・ウイルスやワームなど、情報セキュリティ面で何らかの被害を受けた企業は全体の46%に達し、このうち83%が金銭的被害を被った。これら企業の多くは2001年のテロ後に情報セキュリティ対策を強化していたが、ハッカーのテクニックの進歩に振り回された格好だ。

モーリー氏は言う。「企業は歴史から学ぶことはあっても、経験からは学ばない」。一部の企業を除いて日頃の危機管理が実践されていないのは、これが原因の一つであるという。新たな危機が噴出する中で、企業にとって経験を無視できる余裕は残されていないように思える。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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