広報・マーケティング担当者のための
ネット上の情報発信・情報流通を支援するネットPR.JP

米レコード業界が演じた大失態

公開日:2003年11月6日

 「12才の少女を告訴」――。こんなショッキングな見出しが、米国の大手新聞紙の一面を飾った。告訴したのは、レコード会社を代表する業界団体「米レコード協会(RIAA)」、対する少女は、著作権で保護された楽曲をインターネット上で不正に流通したとして、著作権侵害の疑いで訴えられた261人のインターネット利用者の一人である。「海賊行為を撲滅する」という大義名分はあったにせよ、楽曲愛好者、言い換えれば顧客を訴えて敵に回したレコード業界に、「PR戦略の失敗」を問う声が集中している。
重なった失敗
 RIAAが訴訟に踏み切った背景には、99年をピークに下降を続けるCDやビデオなど、音楽メディアの深刻な売上高の減少がある。RIAAによると、音楽メディアの工場出荷量は過去2年間、前年比2桁台の落ち込みが続き、出荷額も昨年は前年比8.1%減だった。RIAAは不振の原因を、カザー(Kazaa)やグロックスター(Grokster)などのピア・ツー・ピア(P2P)方式ファイル交換ソフトの普及によって楽曲の海賊版が横行したためだと主張、海賊行為の撲滅に乗り出した。
RIAAは最初から一般消費者を狙い打ちしたわけではない。ファイル交換サービスで先行したナップスターを提訴して閉鎖に追い込み、著作権保護キャンペーンを展開するなど消費者の啓蒙活動にも力を入れた。ところが今春、グロックスターとその同業ストリームキャスト・ネットワークス(StreamCast Networks、ファイル交換ソフトのモーフィアスを提供)を著作権法違反で訴えた裁判に敗訴。すぐに控訴したが、行き先を失った追求の矛先を、ファイル交換業者から一般消費者へ振り替えたとみられても無理はない。
一般消費者を敵に回したことが第一の失敗とすると、第二の失敗は、訴訟相手に対してあまりにも無知だったことだろう。9月に第一弾として訴えた261人の中には、前述の少女のほかに、P2Pソフトの仕組みさえ知らなかったシングルマザーや71才の祖父など、未成年者や、違法であることを意識せずに使っていた人、明らかに間違いとわかる人たちが含まれていた。実際にRIAAは9月末、ある老婦人に対する訴えを取り下げるに至った。これには違法者摘出に用いた方法に技術的な制約があり、訴えるまで本人を確認できなかったという事情がある。しかし、事前に本人に警告も与えず、いきなり訴えたRIAAのやり方が高圧的とみられ、反感を増長する結果になったことは疑いようがない。
新聞紙面に12才の少女の写真が掲載されてからまもなく、RIAAのシャーマン委員長は上院司法委員会に出席し、P2Pサービスは児童ポルノ流通の温床になっているとして、これを取り締まる法律の制定を支持した。P2Pの暗所をつき、RIAAの児童保護に対する取り組みを強調する狙いがあったが、遅きに逸した感がある。

P2P業者の反撃
 RIAAは違法に流通された楽曲1曲あたり、連邦法で定められた最高15万ドルの損害賠償の支払いを要求した。しかし、当初から訴訟の目的は海賊行為の撲滅であるとして和解に応じる構えを見せており、10月末現在で156人と和解した。和解金は2500~7500ドル程度という。RIAAはまた、10月末に80人を新たに提訴した。前回の反省から、今回は10月半ばに対象となる利用者に警告を出していた。
一方、P2Pサービス業者は、RIAAの訴えを逆手に取ったPR戦略に打って出た。前述の少女の訴訟では、2000ドルの賠償金を支払うことで母親が代理で和解した。これを受けてグロックスター、ストリームキャストなどが加盟するP2P業者の業界団体P2Pユナイテッドは、2000ドルの和解金の肩代わりを申し出たのである。顧客を訴えたRIAAに対し、顧客保護を全面に出し、イメージの向上を狙ったわけだ。
訴訟の行方
 不正行為の取締りを掲げて顧客を訴えた例は、RIAAが初めてではない。例えばケーブルTV(CATV)業界は信号を不正に利用した顧客を摘発してきたし、最近では遺伝子組換え種子の開発大手が、種子を来年の作付け用に取り置きした生産農家を特許侵害で訴えるケースが出ている。
RIAAは一般消費者を訴えたことで、海賊版撲滅という当初の目的に近づきつつあるのだろうか。明確に効果を示す数字はないが、訴訟問題が新聞やテレビで大きく取り上げられたことによって、著作権問題に対する認識が高まったことは事実だろう。また、調査会社ニールセン・ネットレイティングスによると、カザーの週間利用者数は6月29日の週の650万人から、9月21日の週には390万人へ41%激減した。訴訟の脅威が利用に歯止めをかけたとみられる。
しかし、不正行為の減少が音楽業界の回復につながるかどうかは、別問題だ。業界の不振を不正行為のためとする業界に対し、当初から業界の魅力不足を訴える声は少なくなかったからだ。CDの価格高騰が顧客離れを招き、一連の訴訟事件が業界に対する不信感を増長したであろうことは否めない。また、広帯域インターネット接続サービスが家庭に普及し、新しいメディアの楽しみ方が色々と提案される中で、これに乗り遅れた業界の責任も大きい。アップル・コンピュータの有料楽曲ダウンロード・サービスが4月末の開始から約4ヶ月間に1000万曲を販売したことを考えると、有料販売に対するニーズが無かったとはいえない。市場のニーズを把握して、これに応える――。音楽業界のPR手法が本当に試されるのは、これからだ。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

Follow us!

ネットPR.JP 記事カテゴリー

ネットPR.JP 記事年別アーカイブ

ネットPR.JP 最新記事

ネットPR.JP 記事カテゴリー

ネットPR.JP 記事年別アーカイブ