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ナイキvsカスキー訴訟、和解の影響

公開日:2003年10月2日

 PRキャンペーンの内容に偽りがあったなどとして、カリフォルニア州在住の活動家がスポーツ用品大手ナイキを訴えていた問題で、両者は9月12日、ナイキが150万ドルを支払うことなどを条件に和解した。この訴訟では、企業のPRキャンペーンに対する米憲法修正第一条で定められた「言論の自由」の適用有無が、最大の争点となっていた。企業PRの今後を占うとして各方面の注目を集め、5年に及んだこの訴訟は、将来に明確な指針を残さないまま幕を下ろした。
営利か非営利か
 今回の訴訟は、ナイキの東南アジアの下請け工場について、米国の有力紙が児童を含む労働者に低賃金労働を強制し、労働環境も粗悪であるなどと報じたのが発端となった。ナイキはこれを誤りとして、すぐさま事実関係を説明した公開反論状を最高経営責任者(CEO)名で同紙に送付、同時にプレスリリースを配布し、記事広告も掲載するなどして対応した。しかし、これを目にしたサンフランシスコの活動家、マーク・カスキーは、ナイキの反論内容に虚偽があると主張。98年4月、企業の誇大広告や不正行為からの消費者保護を定めたカリフォルニア州の消費者保護法に違反しているとして、同社を訴えた。

ナイキの反論は、企業利益保護の立場からは当然のことであり、憲法で定められた言論の自由を行使した行為のように受け取れる。しかし、著名な弁護士を集めたカスキー陣営が、ナイキのPRキャンペーンを企業の営利目的と主張したことから、成り行きは複雑になる。

米国では、政治論争など公共の利益を目的としたキャンペーンやスピーチは、法律で定められた言論の自由を保障されている。これに対し、製品やサービスの営業を目的とした、広告に代表される営利目的のキャンペーンは、保障の範囲が限定される。このため、仮に裁判所がナイキのPRキャンペーンを営利目的と判断した場合、ナイキは言論の自由という盾を失い、法的責任を問われる対象となる。裁判に負けると、同州の事業利益の払い戻しを命ぜられるリスクがあった。

最高裁が判断見送り
 カリフォルニア州の下等裁判所は、カスキー陣営の訴えを2度にわたり却下した。しかし、同州の最高裁判所は2002年7月、ナイキのPRキャンペーンを営利目的のスピーチ(コマーシャル・スピーチ)だったとする判断を下した。ナイキはこれを不服とし、連邦最高裁判所に控訴。コマーシャル・スピーチの定義について、何らかの指針が示されることを期待したが、最高裁は今年6月、当件をカリフォルニア州最高裁に差し戻しした。ナイキは、長引く訴訟による費用の高騰を懸念し、和解に踏み切ったとみられる。訴訟では、キャンペーン内容の事実関係が争われることはなかった。

 判決の行方は、当初から多方面の注目を集めた。米PR協会(Public Relations Society of America)を含む約150の企業と団体は、企業の言論の自由を求める書簡を最高裁に提出し、ナイキの立場を支持した。ブッシュ政権も、ナイキ側についた。活動家による、企業活動の検閲につながることを恐れたためだ。一方、労働や環境問題を扱う団体などが、カスキー陣営を支援した。

和解
 ナイキは和解のなかで、今後3年間にワシントンDCに拠点をおく労働権利団体、公正労働協会(Fair Labor Association、FLA)に150万ドルを支払うことに合意した。FLAは今後、海外労働環境の監視システムの改善と、労働者の教育などに資金をあてる計画という。また、両者は、企業の責任を評価・報告するための世界的標準作りでも協力する。

 ナイキは、就労時間後の労働者教育と、マイクロ・ローン・プログラムに対する既存の資金助成を、今後2年間継続することでも合意した。

透明性に懸念
 今回の和解が、企業の今後のPR活動に与える影響は現時点で不透明だ。企業の憲法修正第一条の権利を問うた裁判に、最終的な判断が下されなかったためだ。しかし、企業が自社の情報公開に、より慎重になるのは確かだろう。実際、ナイキはカリフォルニア州におけるイベント参加や対メディア活動を制限し、これまで行なってきた企業責任に関する報告「コーポレート・レスポンシビリティー・レポート」も、2002年度分は外部公開を見送ることにした。

 PR業界団体アーサー・W・ページ・ソサエティ(Arthur W. Page Society)も、「公的議論に参加する企業の権利と表現の自由が、制限される可能性がある」と指摘。企業は法的リスクを小さくするため外部との情報共有に慎重になり、結果的に企業の透明性を阻害しかねないとの懸念を示した。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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