広報・マーケティング担当者のための
ネット上の情報発信・情報流通を支援するネットPR.JP

米国型企業統治システムのほころび

公開日:2002年11月1日

 経営破綻した米通信大手ワールドコムの次期会長候補に、ルドルフ・ジュリアーニ前ニューヨーク市長が浮上――11月、久し振りに表舞台に登場したジュリアーニ氏の動静が新聞紙面やテレビのニュース番組をにぎわせた。同氏は、「企業統治のモデルを確立したい」とするコメントを発表。昨年のエネルギー取引大手エンロンの会計不祥事発覚をきっかけに、もろくも崩壊した米企業に対する世間の信頼を取り戻す大仕事に取り組もうというわけだ。

機能しなかった仕組み
 エンロン、ワールドコム事件では、きっかけとなった一部役員の暴走を見逃した企業統治のあり方に非難の矛先が向けられている。米国型企業統治は、取締役会、報酬委員会、監査委員会などの各委員会が高い独立性をもって経営を監視し、さらに監査法人、格付け機関、証券取引委員会などの外部組織、機関が投資家保護の立場から監視に加わり、早期に危機を発見し、取り返しがつかなくなる前に警鐘を発せられるはずだった。二重、三重に固めた監視システムが、なぜ危機を発見し、抑制することが出来なかったのか。実は破たんしたエンロンは、企業統治の先進事例としてもてはやされた時期もあった。著名な人物を社外取締役に迎え、株を取得させて企業成長に積極的に参画させるインセンティブも与えていた。ところが、すでに議論がなされているように、問題は仕組みではなく、それを運営する側の人にあった。複雑に絡みあった利害関係に翻弄され、本来の役割を放棄した人がシステムの形骸化を招いてしまった。

この反省から、米国ではブッシュ大統領が口火をきって法制面からの立て直しに着手し、7月には米企業会計改革法(通称、2002年サーベンス・オクスレー法)を成立させた。取締役会の独立性を高めて社内の監視体制を強化すると同時に、罰則を厳しくして企業責任を明確化、さらに、これまで後手に廻っていた外部監査法人の監査をシステム化した。主な内容は下記の通りである:

●CEOは財務諸表などの内容に間違いがないことを保証する。何らかの不正があった場合は、罰金、または禁固刑に処す。
●郵便・通信詐欺罪に対する禁固刑の刑期を、現行の最長5年から同20年へ厳罰化。
●取締役会は、企業と利害関係がない独立取締役を中心に組織する。
●取締役や執行役員に対する融資を禁止する。
●監査法人による、監査を行っている企業に対するコンサルティング業務提供を原則禁止する。
●監査法人を監視する、非営利の独立監視機関「Public Company Accounting Oversight Board」を設置する。

企業の信頼回復
 相次ぐ会計不祥事が米経済に与えたダメージの大きさは計り知れない。企業はすっかり世間の信頼を失ってしまった。非難の矢面に立たされているのは、最高経営責任者(CEO)である。投資家の利益に反したCEOや退任した経営者への過大な報酬や特典も明るみになり、批判が集中している。かつてCEOは、タイム誌が4年前に行った調査「最も力があるアメリカ人10人」で10人のうち7人に選出されるなど、権力と繁栄の象徴だった。米国を代表する優れた企業、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルト会長兼CEOは、「(CEOは今や)不誠実の代名詞になってしまった」と嘆く。「(長年かけて築き上げた)信頼は、些細なことがきっかけで簡単に崩れてしまう。一度失った信頼は、我々を含むシステム全体が協力し、改善に取り組むことによってしか取り戻せない」と主張する。

 GEは11月はじめ、前述のサーベンス・オクスレー法の要件を満たし、独自の条件を追加した企業統治変革を発表した。主な内容は下記の通りである:

●取締役の3分の2を独立取締役とする。
●社外取締役は、経営陣が参加しない会合を年間最低3回開催する。
●各取締役は、年間最低2部門を経営陣の立会いなしで視察し、業務リーダーとの直接対話を図る。
●取締役の自己評価制度を設ける。
●兼務できる他社取締役の数を4社に制限する。
●監査委員会の責任を増大させる。年間最低7回の会合を実施する。
●シニア・マネジメントは、一定額のGE株式を保有する。ストックオプションを行使して取得したGE株式は、最低1年間保有する。

取締役の独立性を高め、積極的に企業活動に参加する機会を与え、発言できる環境作りに重点をおいた。これは当たり前のようで、実現はなかなか難しい。一部企業では、「取締役会の話題といえばゴルフとゴシップだけ」と揶揄されることも珍しくなかったほどである。

盛況のトレーニング・セミナー
米国を中心に1,300店舗を展開する日用大工用品専門店ホームデポは、積極的な企業統治改善を進め高い評価を受けている。同社の取締役は、12人のうち10人が独立取締役となっており、独立取締役だけの定期会合を実施している。また、企業活動に対する理解を深めるため、取締役に年間最低20件の店舗訪問を義務付けている。

半導体大手インテルは、企業統治の正常な機能と改善を推進するリード取締役を設けた数少ない企業の一つである。監視、報酬、指名委員会は全て独立取締役で構成し、取締役の自己評価システムを導入した。

不況化で多忙を極める業界もある。PR業界である。企業統治専門グループを設けて対応に忙しい。名門ビジネス・スクールが開催する取締役向けトレーニング・セミナーや企業統治関連コースも盛況だ。立ち見席が出るほどの人気コースもあるほどだ。仕組みを理解し、その上で実際に企業内部へ思いきったメスを入れられるかどうかに、世間の信頼を回復し、不況を乗り越える可能性は残されているといえそうだ。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

Follow us!

ネットPR.JP 記事カテゴリー

ネットPR.JP 記事年別アーカイブ

ネットPR.JP 最新記事

ネットPR.JP 記事カテゴリー

ネットPR.JP 記事年別アーカイブ