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再生の1年、明暗を分けた瞬間

公開日:2002年9月1日

 米同時多発テロ発生から1年。世界貿易センターで人的そして経済的に多大な損失を被った企業は、次第に再生の道を歩みつつある。一方、エンロン事件に端を発するスキャンダルの相次ぐ発覚で、市場の信頼を失った企業は、企業統治や情報開示のあり方に大鉈をふるい、信頼回復に向けた改革に取り組んでいる。過去に例をみない混乱と試練から、再出発をはかる企業の1年を振り返る。

テロ跡地からの再生
創業40年のブティック型投資銀行Keefe, Bruyette & Woods(KBW)が今年春に移転した新事務の玄関ホールには、大きな星条旗が掲げられている。昨年9月11日、世界貿易センタービルで亡くなった67名の社員の名前を赤字と白字で描いたものだ。KBWは、会長兼共同CEO(最高経営責任者)のJoe Berry氏を含め、ニューヨーク地域で働く従業員の約3分の1を失った。当地のマスコミ報道によると、テロ直後のKBWは全くの混乱状態にあり、一時は事業閉鎖も考えたと言う。あれから1年、同行は金融不況を生き残り、売上高は前年を少し下回る程度にまで回復した。

テロ発生から3日後の昨年9月14日、KBWは声明を発表し、従業員67名の安否が不明であること、家族に対して最大限の支援を提供すること、そして事業の継続を表明した。1週間後の18日には、コネチカット州とマサチューセッツ州の事務所を拠点に株式取引事業を再開させた。ただし、これは長い再生の道のりの一歩にすぎず、テロで調査部門と取引部門を中心に多くの人材を失った同社は、先行き不安定要素を多く抱えていた。ところが事業の継続を表明して以降、同行はウォール街で働く多くの人々、そして競合行の支援を得ながら次第に息を吹き返すことになる。

まず、同社の元従業員や退職者などの人材が現職を退き、KBW再生のために次々と集まってきた。ビジネス誌などの報道によると、無給のボランティアで金融市場レポートの作成、株式取引、人材指導などを申し出た人材も中にはいたという。KBWのホームページで公開された犠牲者名簿に、かつての同僚の名前を見つけ、駆け付けた人材もあった。また折からの金融不況で職を失った人材が、同社の募集に殺到したことも有利に働いた。さらに特筆すべきことは、ウォール街の競合金融各社がKBWへ株取引注文を出したり、投資案件へKBWを参加させたりするなど、同行へ仕事を発注する形で多くの支援を提供したことである。

2年目の課題
無休で働いた従業員の努力と、業界の支援を得て再生の道筋をつけたKBWだが、業界には「本当の試練はこれから」との見方もある。従業員数は前年を上回るレベルに回復したが、増員分の大半は他行からの転職者であり新人である。おそらく多くの企業にとってそうであるように、再生2年目は、人材教育と企業文化の確立という2つの大きな課題を背負いながらの挑戦となる。

KBWは、犠牲となった従業員の家族救済基金を設立し、昨年だけで1,000万ドル以上を募った。去る9月24日は「トレーディング・デー」として、株取引の売上げコミッション全額を基金へ寄付した。今後も年に1回の割合でドレーディング・デーを設ける予定である。参考までに昨年のトレーディング・デーでは、1日で450万ドルを寄贈したという。またCEOのJohn Duffy氏はこのほど再生の過程を綴った書籍を出版したが、印税収入は全額、基金へ寄付することを決めている。

信頼性の回復
ポスト・エンロン時代、企業の価値は「企業統治のあり方」や「情報公開の透明度」を基準に判断される傾向が強い。その流れに乗って「開放性」と「誠実さ」を前面に出し、投資家や金融アナリストから一躍注目を集めている人がいる。投資銀行大手JPモルガン・チェイス・マンハッタンの最高財務責任者(CFO)、ダイナ・ダブロン氏である。

JPモルガン・チェイスは、エンロンやワールドコムが同行の顧客であったことをきっかけに不信感から市場評価が下落し、株価は低迷を続けている。同行はCEOのWilliam B. Harrison Jr.氏が自ら率先して「開放性」を掲げた信頼性回復に取り組んでおり、それを実践しているのがダブロン氏である。ニューヨーク・タイムズ紙によると、業績見通しの良し悪しに拘わらず、率直かつ正直に情報を提供して意見を述べるダブロン氏は、投資家や金融アナリスト等からの信頼回復に貢献しているという。

ダブリン氏は今年1月、14人からなる同行経営委員会委員の一人に女性として初めて選出されたやり手で、次期副会長候補の呼び声も高い。女性のキャリア開発や難民の救済活動にも積極的で、広範囲にわたりJPモルガン・チェイスのイメージ向上に一役買っている。不祥事の相次ぐ発覚で多くの企業経営陣が受身の防御体制を取るなかで、同行の積極姿勢は特異でもあり評価を得ている。

エゴとの葛藤
あるPR専門家は、企業イメージは「米国社会全体が大きな打撃を受けた時に、いかに私利私欲を捨てて社会に貢献出来るか」によって、大きく評価が分かれるという。危機対応の方法次第では、企業は後々、大きなツケを払わされることになる。1年を振り返ると、企業の明暗を分けた瞬間が鮮明に浮かび上がってくる。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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