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危機管理コミュニケーションの備え

公開日:2002年8月1日

 ある調査によると、危機に遭遇した企業のうち、40%が2年以内に破たんしているという。企業が直面する危機をいかに管理し、解決していくかということは、企業の存亡そのものを左右する重要な要素の一つである。危機を完全に取り除くことは出来ないが、企業の心構え次第でその結果を大きく変えることは可能である。世界的に活躍する航空貨物輸送大手のFederal Express(FedEx)は4年前、顧客からの信頼失墜という重大な危機に直面し、メディアを巻き込んだ大々的なコミュニケーション戦略を展開した。その結果、同社は危機を見事に乗り越えたばかりか、金融市場における同社に対する信頼感を高めるという“おまけ”まで手中にした。

パイロットのストライキ
FedExは98年、年末の繁忙期を前に5年越しの労使交渉のもつれからパイロット組合がストライキ入りを表明、サービス中断の憶測が流れて顧客や従業員、株主の信頼喪失の危機にさらされた。そこでFedExは社内のPR担当部門、PR会社Ketchum Public Relationsと危機対応チームを組織、顧客や従業員など利害関係者を対象にしたコミュニケーション戦略を策定・展開し、世論を味方につけることに成功。ストライキ回避と危機を逆手に取った信頼感の向上に成功した。

同社はまず、労使交渉が暗礁に乗り上げた10月中旬から12月中旬にかけて、顧客と本社所在地でパイロットの3分の1を雇用するテネシー州メンフィスで大掛かりな顧客および世論調査を実施、同時にウェブサイトやチャットルーム、マスコミ報道を一日に数回の頻度でモニターするなどして情報収集にあたった。次に、情報収集と分析結果に基づき、財務や組織面での同社の「強み」に焦点をあてた“前向きな”コミュニケーション戦略を策定した。競合他社が過去にストライキから一時サービス停止に追い込まれた経緯から、顧客や従業員に対して不安感を払拭することに重点をおいた。

同社はコミュニケーションの対象を顧客、パイロット以外の従業員、株主、そしてパイロットに設定し、次の4点を目標に掲げた:

(1)顧客維持と、繁忙期の輸送物取り扱い量の維持
(2)14万3000人の非パイロット従業員のモラルとサービス・レベルの維持
(3)株価と株主の信頼維持
(4)パイロット組合との交渉再開と契約締結

危機対応チームは1日に2回、顧客サービス、法務、マーケティング・投資家向け広報、社内広報担当者などを集めたミーティングを開催してフィードバックを収集、目標達成の手段に還元していった。

目標達成のため、顧客に対してはサービスを中断しないこと、非パイロット従業員に対しては雇用の保証を、株主に対してはマスコミとアナリスト経由で事業の強みを繰り返し訴えた。メッセージを伝える手段としては、マスコミや自社ウェブサイトを利用し、従業員向けにはメッセージを書いたポスターやTシャツを配布して士気を鼓舞。最高経営責任者と最高業務責任者が先頭に立って会合を開催、従業員6000人に対して直接語りかける機会を設けるとともに、社内テレビやイントラネットでは連日、経過を報告した。

地元メディアを利用
パイロットに対しては、組合を経由すると会社の意向が正しく伝わらないとの懸念から、会社側の提案内容の詳細を直接自宅に送付したり、提案内容を第3者機関に評価させるなどして正確な情報伝達に努めた。地元メディアは連日、ストライキが会社、地域社会そして世界経済に与える影響を取り上げた。最終的には創業者がパイロットとその家族に対して、企業は特定個人には左右されないこと、また他の従業員を犠牲にして特定グループだけを保護することはありえないこと、などの強いメッセージを送った。

結果
コミュニケーション・キャンペーンの実施から数週間後、組合はストライキ実施を延期、交渉は再開され、最終的に契約締結にこぎつけた。この間、FedExから競合他社へ乗り換えた顧客はごく僅かに留まり、懸念の出荷量は最終的に前年比12%の増加、株価も上昇した。経営陣が頻繁にマスコミに登場してFedExの事業内容や競争力を訴えたこと、大口顧客もマスコミ経由で同社に対する信頼や満足度を繰り返し表明したこと、さらにストライキを回避した組織力などが評価された。従業員のモラルや企業への忠誠心も向上し、一般のストライキ回避集会へ参加する従業員の姿はマスコミでも多く紹介された。こうしてFedExは、ストライキ突入の危機を回避し、5年来の契約締結にこぎつけた。

潜在的危機の発見
最も有効的な危機管理とは、危機そのものの発生を未然に防ぐ手立てを日頃からとることである。PR業界の団体Institute for Public Relationsによると、メリーランド大学のJames Grunig教授はかつて「理想的な危機管理コミュニケーションは、危機が発生するはるか以前から始まっている」と述べたと言う。日常のコミュニケーションこそが危機回避と早期終息の基本であるとし、その理由として、十分なコミュニケーションに裏打ちされた企業の決定や行動は利害関係者の同意や協力を得やすいとしている。

一対一のコミュニケーションに限らず、利害関係者の声を拾う方法は多様化している。例えば、チャットルーム、ニュースグループ、マスコミ報道を定期的にモニターするだけでも、潜在的危機の根を発見することは可能である。社内報や電話アンケートなどを利用して、企業のメッセージに対する従業員、ベンダーや地域社会の反応をみることは比較的簡単にできる。重要なことは、モニターや調査の結果を分析して、次のコミュニケーション戦略に活かすことである。最も有効で、かつ日常的にできる危機管理の備えは、身近なところにあるのである。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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