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米国史上最大の倒産劇が残した教訓

公開日:2002年7月1日

 38億ドルという巨額の利益水増し疑惑の発覚などで経営難に陥っていた米国第2位の長距離通信事業者WorldComが7月21日、連邦破産裁判所に米連邦破産法11条(日本の会社更生法に相当)の適用を申請し、破たんした。資産規模は1070億ドル。先に破たんしたエネルギー大手Enronの634億ドルを上回る米国史上最大の倒産となった。「世界のインターネット・トラフィックの60%は同社の回線を経由する」――と言われ、一時は“ニューエコノミーの旗手”ともてはやされた同社の没落は、業界や国境を超えて大きな影響を及ぼしている。破たんの直接の引き金となったのは経営陣による粉飾決算だが、それ以前にも同社の“変調”は、一部の顧客企業そして従業員の間では明らかだった。PRの観点から破たんの道すじを振り返ると、M&A(企業の買収・合併)を繰り返し肥大化した企業内部の“コミュニケーションの欠如”がくっきりと浮かび上がってくる。

カリスマCEOの死角
「憲法修正第5条に基づき証言を拒否します」――7月初め、WorldCom粉飾決算の事実関係を調査する米下院金融委員会の公聴会の席上、Bernard J. Ebbers前CEO(最高経営責任者)は一切の証言を拒否した。無表情に同じ言葉を繰り返すEbbers氏の姿をテレビ中継で目にしたWorldCom元社員は、あまりの変わり様に絶句したという。背が高くがっしりした体格に豊かに髭をたくわえたEbbers氏はかつて、「経営者として求心力がある、非常に魅力的な人」だったという。
小さな宿泊施設の経営者だった同氏は、地方の通信事業者を買い取り、通信業界へ参入した。その後、規制緩和の後押しも受けて同業他社を次々と買収、事業規模を拡大していった。かつてバスケットボールのコーチを務めたこともある同氏の口癖は「経営もバスケットボールと同じ。経営者の役割は、優秀なプレヤーを集めてコーチすること」だったという。
 同社が買収した企業の数は70社とも言われる。通信業界において地位を確実に築いてきた同社に買収戦略のほころびが見え始めたのは、自社よりもはるかに大きな事業規模と名声を誇る通信事業者、MCIを買収したころ。買収された元MCI従業員の、現場レベルでの統合に難航した。従業員が出身企業別に結束し、他社出身者からの仕事の依頼は優先度を下げる、情報共有に時間をかけるなど、従業員間の不和が一気に表面化したという。同時に顧客企業からは、顧客サービスの悪化を指摘する不満の声が大きくなっていった。カリスマ経営者の求心力は消え失せ、価値を共有できなくなった従業員はばらばらの方角へ進む――企業の組織としての機能は低下し、結果的に一部経営者の暴走を許してしまった。

変化を活かす
 経営戦略、製品戦略、競合企業の動向、顧客の嗜好――企業は日々、様々な変化に直面している。M&Aも変化の一つ、対応次第では企業を強くし、前述のように崩壊のきっかけとなることもある。PR会社Golin/Harris Internationalは、変化を活かす従業員とのコミュニケーションのポイントとして14項目を指摘している。下記に簡単に紹介する:
●短期的な利益ではなく、長期的な利益に重点をおく。
●管理職に従業員への説明責任を負わせる。
●コミュニケーションの手段を定期的に評価し、改善する。
●フィードバックを収集する手段を設け、対応する。
●従業員の価値観や文化的多様性を理解し、対応する。
●目標を設定し、進捗状況を共有する。
●従業員の業務によって異なる情報ニーズに対応する。
●他社のベストプラクティスに学ぶ。
●進捗を追跡し、結果を測定する仕組みをつくる。
●従業員と、変化の必然性を共有する。
●従業員とのコミュニケーション戦略を立案し、実行する。
●コミュニケーション戦略立案の前に、従業員の価値観や問題意識を調査、理解する。
●変化の過程で、重要なメッセージを強調する。
●企業の基本的な人事ポリシーもあわせて検証する。

連続不祥事に学ぶもの
 通信機器開発大手のCisco Systems。WorldComと同様に同業他社を次々と買収して新技術を取り込み、業界最大手に君臨する。同社は日常のコミュニケーションにセルフサービス型のイントラネットを活用し、急速に発生する変化に対応している。同社の新入社員の初日は、イントラネットへアクセスして電子メールを設定し、福利厚生プログラムへ登録することから始まる。製品、技術、経営戦略に関する情報は瞬時に入手でき、Eラーニングのコースも提供している。文房具の注文、出張準備などもオンラインで可能だ。管理職は業務の進捗状況や財務状況など、意思決定に関わる情報を瞬時に入手することができる。イントラネットの導入は、業務効率の向上とコスト削減の他に、従業員のやる気の育成に大きな効果があったという。情報を一方的に流すのではなく、従業員の行動を促す「参加型」にしたことが奏功した。
経営者によるがんじがらめの管理が、やる気を阻害した例もある。中堅半導体メーカーA社のCEOは、部門別の業務目標管理システムを導入。目標を達成できなかった部門には、管理職の給料支払いを遅らせるなどの厳しい罰則を設けた。業界誌などによると、このCEOは導入後まもなく同システムを廃止した。管理職が体裁を繕うだけの点取りロボットになり、罰則を恐れるあまり嘘の申告まで出てきたためという。
 A社の例は特殊としても、効果的なコミュニケーションの確立は一朝一夕に実現できるものではない。変化に直面して慌てる前に、日常のコミュニケーションの問題点を検証し、改善、評価を繰り返す必要がある。米国企業の相次ぐ不祥事の発覚は、コミュニケーションの基本に立ち返るきっかけでもある。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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