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CEOと危機対応

公開日:2002年6月1日

 米国でこのところ、大企業の不祥事が相次いで明らかになっている。エネルギー大手Enronの経営破たんをきっかけに企業会計に対する不信が次々と米企業へ飛び火し、疑惑や不正が表面化している。Enronの会計監査を担当した会計事務所大手Arthur Andersenは6月、Enronの関連文書を破棄して証拠隠滅を図ったとする刑事訴訟で有罪評決を受けた。この結果、同社の監査業務は約90年の歴史に事実上の幕をおろすことになった。複合企業Tyco Internationalは不明朗な融資や会社資金の流用が取り沙汰され、ケーブルテレビ全米6位のAdelphia Communicationsは創業者一族への不明朗な債務保証が発覚した。Adelphiaは6月中にも米連邦破産法11条の適用を申請すると見られている。これら一連の事件に共通する点は、いずれも従業員や株主の利益を最大限にすることが使命であるはずの最高経営責任者(CEO)をはじめとする企業経営陣の不正が引き起こしたという点である。かつて「企業倫理の砦」とされたCEOは、いまや不名誉の代名詞ともなっている。

「カリスマ主婦」とEnron事件
 パステル調に統一された明るい台所でにっこりと微笑む、日本にもファンが多い「カリスマ主婦」、Martha Stewart。料理やガーデニングをテーマに40冊以上の書籍を出版し、テレビやラジオで活躍中のStewart氏は 、年商2億9,500万ドルのMartha Stewart Living Omnimediaの会長兼CEOでもある。そのStewart氏も、疑惑の真っ只中にいる。バイオ大手ImClone Systemsの株式売却に絡むStewart氏個人のインサイダー取引疑惑だ。米食品医薬局は昨年12月、ImCloneが開発した抗がん剤の販売申請を却下、その直後に同社の株価は急落した。Stewart氏は株価急落の前日に同社の株式を売却していた。その後、ImCloneの前CEOがインサイダー取引の疑いで逮捕され、同氏と親交があったStewart氏へも疑惑の目が向けられている。
 Stewart疑惑と前述のEnron、Tyco事件では、対象が個人と企業という点で異なるが、Stewart氏が自身の企業のブランド・イメージや信用に大きなダメージを与えたという点では同じである。長い年月をかけて築き上げてきた信用や評価を、一瞬のうちに失いかねない危機に直面している。

コクーニング現象
 CEOや経営陣は企業の信用や評価を危険にさらしてまで、なぜ私利私欲に走ったのか。倫理感覚を麻痺させた背景には何があったのか。原因はそれぞれ異なるだろうが、共通する要素の一つに大きな意味での「コミュニケーションの欠如」が挙げられる。ビジネス誌やPR専門誌では最近、他人の意見や批判を聞こうとしない経営陣、特にCEOの「横柄さ」や「尊大さ」を指摘、非難する記事が目につく。ネット・バブルにのって天井知らずで上がる株価に、経営陣は従業員や株主、関連会社の意見に耳を傾けることを忘れてしまった。株主もそれを黙認してしまった。企業監査や社外重役の登用によるチェック機能も、全く働かなかった。企業は今、基本的なコミュニケーションを“ないがしろ”にした代償を払わされているかのようだ。外部からの声を遮断して、居心地のよいコクーン(繭)に立てこもる――経営陣によるコクーニング(閉じこもり)と、それを放置した全ての利害関係者が企業私物化の温床を作り出した責任は重い。
 さらに頭が痛いことには、一旦閉じこもった経営陣は、予期せぬ危機の発生に非常に弱い。コミュニケーションに対する意識、能力の低さが、危機を一層深刻化させる悪循環に陥る危険をはらんでいる。

危機が企業を強くする
 危機に遭遇した企業は、一体何をして、何をしてはいけないのか。企業が頻繁に犯す過ちの一つに、疑惑の隠蔽がある。危機を乗り越えるために、自社に不利となる情報や疑惑はひたすら隠し通す。または、公表を遅らせる。前述の企業の場合も、調査の段階で次々と新事実が明るみに出て、その都度、企業の信用は地に失墜していった。PR大手Edelman Public Relations Worldwideは「企業の評価は、企業が直面した危機そのものよりも、いかに対処したかで決まる」という。別のPR専門家も「対処の方法次第では、企業の評価や信用を危機発生前より高めることも可能」と指摘する。Edelmanは危機対応で最も重要なことは「事実関係を早急に把握し、利害関係者に公表すること」という。これは簡単なようで、最も難しいことでもある。
利害関係者への事実関係の説明には、情報を大多数に、かつ瞬時に伝達可能なテレビや新聞などのマスメディアの利用が効果的である。その前に、従業員への直接説明が必要であることは、言うまでもない。自社に都合がよくなるように事実を歪曲するのはもちろん、事実の公表の遅れは企業にとって命取りになりかねない。Andersenの場合、CEO(当時)のJoseph Berardino氏が議会で「不正の事実はなし」と証言した後で、従業員によるEnronの文書破棄疑惑が浮上し、顧客流出を加速する結果となった。Tycoの場合、公開情報の限定が原因で次々と疑惑が膨み、追い詰められた。慌てたCEO(当時)のDennis Kozlowski氏は急遽、米証券取引委員会へ提出する決算報告書の内容を充実させる、プレスリリースをタイムリーに発行する、投資家との電話会議を毎週1回設ける、などの対策を講じたが、遅すぎた。危機対応のPR戦略の欠如が、新たな危機を作り出し、危機を一層深刻にした。Kozlowski氏は6月に退任、その後、脱税の罪で起訴された。

危機対応計画
 企業にとって危機対応計画の整備は大前提だが、経営陣と従業員の信頼関係がなければ、せっかくの計画も机上の空論に終わる危険がある。日常業務の中にくすぶる危機の発生要因は多い。CEOの汚名をばん回するためにも、社内外のコミュニケーションを通じた危機予防と早期発見、そして発生時に耐えうるだけの信頼関係の育成が日頃からのぞまれる。
 参考までに、危機管理専門のコンサルティング会社Institute for Crisis Management(ICM)が発表した調査によると、2001年の世界の危機発生件数(企業、組織・機関に発生したもの)は9,033件で、統計を取り始めた90年以降で最高を記録した。景気低迷、ドットコム崩壊、会計疑惑、そして昨年9月の米国同時テロ事件などが主な原因である。最も多かったのは「集団代表訴訟」で、「製品の欠陥、リコール」「労働争議、ストライキ」「職場暴力」などが続き、これだけで全体の3分の2を占めた。企業別ではタイヤのリコール問題にあった自動車大手FordとBridgestone/Firestoneが2年連続で最多を記録した(表1)。

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■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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