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“ハッピー”な社員が企業を変える

公開日:2002年5月1日

 米国企業で社員教育を見直す動きが広がっている。米景気は実質国内総生産(GDP)などの数値を見る限り上向きであることには相違ないが、実際の企業活動はハイテク分野を中心に力強い回復力は感じられない。企業は低迷期を乗り切るために人員解雇を含む経費削減を進める一方で、残った社員の生産性を最大限に高めることに重点をおき始めたのである。社員の生産性向上へ向けた取り組みは、決して今に始まったものではない。過去10年あまりをみただけでも米企業は情報技術(IT)を取り入れて業務の合理化を積極的に進め、IT武装化した社員は文字通り世界各国を飛び回った。ただし今回の見直しの動きには、過去10年間の流れとは異なる点がある。それは社員教育の焦点が社員の「スキル(技量)の向上」から「やる気の育成」へと移りつつあることである。

自己実現の欲求
 「社員が自己の能力開発に、継続して取り組める環境を用意することです」――オフィス用品流通大手の社員教育担当者は、社員教育の目的をこう説明する。コンピュータのプログラミングに興味を持つ社員にはプログラミング関係の教材や学習機会を与え、終了後には学んだ技術を活かせる仕事、またはそれを伸ばせる仕事につかせる。個人の財産となる資格取得を支援し、取得に応じた昇格や昇給の機会を与える。つまり、社員に目的をもたせて自己実現のための環境を与える、突き詰めれば社員にとって魅力ある職場を提供する。その結果、社員の仕事に対するやる気が高まり、生産性も向上するという。
 人材確保の点からも、社員の自己実現欲求への対応は、企業にとって避けては通れない課題である。人材の流動性が高い米国では、企業は給料や福利厚生面で好条件を提示して人材確保に奔走する。昨年来の景気低迷で労働力の供給は一時に比べて緩和したが、人材確保は一層、厳しさを増している。企業の社員教育のあり方は、人材が就職先を価値判断する際の物差しの一つでもあるのである。

企業を変える
 米調査会社META Groupは3月、企業による人事関連の投資先は今後3~5年の間に従来の「雇用関連」から「既存社員の能力開発」へシフトするとの予想を発表した。社員教育強化の背景には、企業の既存業務をネットワーク化して経営の効率化を目指したEビジネス化やグローバル化の動きなど、企業を取り巻く環境の変化があることは確か。社員にスキルを身に付けさせれば、ある程度の生産性が向上するのは事実だが、これだけでは低迷期の根本的な問題解決にはならない。大手PR会社の幹部は「(低迷脱出のために)企業を変えるのは、社員のやる気」であるという。やる気は、社員と企業の信頼感に裏打ちされた自己実現の可能性があって初めて生まれる。「スキル詰め込み型」の教育から「やる気の育成」へ、社員教育の最終目的の比重は移りつつある。
ある企業の人事担当者は自らの仕事を「社員をハッピー(幸せ)にすること」という。「やる気に満ちてハッピーな気持ちで業務に取り組む」――企業を低迷から救う社員像が浮かびあがってくる。

ブレンド・ラーニング
 社員教育が重要であることはわかっていても、予算は無限にあるわけではない。むしろ現状は予算が削られる中で、従来以上の成果が期待されている。そこで社員教育の形態の一つとしてEラーニングを取り入れる企業が増えている。Eラーニングについては当シリーズの第4回でも紹介したが、インターネットやイントラネットなどのネットワーク環境で提供される教育形態のことである。既存の紙ベースの教材をCD-ROMなどの電子媒体に置き換えて、社員がパソコンを使って好きな時間に好きな場所で学習できるようにしたのが始まりである。ネットワーク環境で提供されるようになったのは、企業にインターネットやイントラネットが普及した90年代中旬以降のことである。これにより、全米または世界に散在する多数の社員を、同じ教材を使って、同じレベルで、同時に教育することが可能になった。時間を決めて社員が特定の場所へ集まって実施する従来の集合研修と異なり、社員や講師の移動にかかる費用や時間を削減できるのも利点の一つである。調査会社IDCは4月、ネットワークを使った世界の企業向けIT関連研修市場規模は2002年、前年比44%増になるとの大幅増を予想している。
2001年頃からは、目的に応じてEラーニングと集合研修を組み合わせるコンセプト「ブレンド・ラーニング(Blended Learning、Blendedは組み合わせる、統合するという意味)」が取り入れられ始めた。例えば、社員にEラーニングで各自予習をさせて、集合研修に臨ませる。集合研修では講師との質疑応答や他の社員との意見交換や議論、実地訓練に重点をおく。集合研修終了後は再びEラーニングで習熟度を確認するための試験を受けさせる。実際の職場では試験の結果に基づき不得手な分野を集中訓練する。Eラーニングと集合研修、それぞれの特徴を活かして、限られた予算で最大限の効果を上げることを目指した試みである。
「ブレンド」には、Eラーニングと既存の社内システムとの統合という意味も含まれている。例えば、社内のナレッジマネジメント・システムとEラーニングを組み合わせる。社員が実際の業務で身に付けたノウハウなどの生きた教材を効率的に活用することを狙ったものである。

ベビーブーマー世代の終わり
 実は米国では1946~64年生まれで現在55~38歳、いわゆるベビーブーマー世代の退職がこれから始まる。企業によっては今から10年後には、現在の経営陣や管理職がすっかりいなくなっている可能性もある。自己実現欲求が強くやる気に満ちた人材を――ベビーブーマー世代に続く人材の育成は、企業にとって急務となっている。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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