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“当たり前”の過信に潜む危険

公開日:2002年4月1日

 皆さんはインターネットの情報サイトが主催する企業別の掲示板やチャットのコーナーをのぞかれたことがあるだろうか。例えば電機メーカーA社のページでは、A社の従業員、顧客、投資家などがA社の新製品やサービス、株価推移、経営方針に関する意見を実名、匿名で寄せている。時には新聞やテレビの報道からはわからない、社内の人間にしか知りえないニュースの裏話や“内部告発”があったりもする。情報はその真偽にかかわらず時空を越えて瞬時に伝達され、翌日の新聞紙面に掲載され最悪の場合には株価暴落を招いたりする。企業にとって「当然、われわれの味方」と信じて疑わない従業員が、企業に重大な危機をもたらす発信源になりえるのである。

信頼の連鎖関係
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Golin/Harris Internationalの
Wolffさん(左)とGaudaさん(右)

 「Golin/Harris Internationalは1957年設立の老舗PR会社。自動車大手のDaimlerChrysler、食品産業のMcDonald’s、通信事業のSprintなど世界110ヶ国、4,000社の顧客を抱える。株主、政府機関、地域社会、顧客そして従業員など、企業とその利害関係者との強固な信頼関係の構築をサービス提供の目的に掲げている。社内外に1人でも多く企業の支援者をつくる。「信頼関係なくして企業の成功はありえない」との考えに基づいている。従業員コミュニケーション関係サービス担当のJacinta C. Gauda執行副社長は信頼関係が生む連鎖反応を「企業と従業員の間の強い信頼関係は、従業員の企業に対する忠誠心や仕事に対するやる気をはぐくむ。その結果、従業員1人1人の生産性が高まり、製品やサービスの質が向上して企業の評価向上につながる」と説明する。信頼関係を築くための日々のコミュニケーションにおいて大切な主なポイントは、下記の通りという。
 ●従業員が企業に期待するもの-タイムリーで正確な情報伝達―を理解する。
 ●企業の戦略、問題点、対策、財務状況など社内の情報共有の透明度を高める。従業員の多くは(401kプログラムなどを通じて)株主でもある。
 ●従業員にとって、企業が重要な情報の最初の伝え手になること。社外の報道機関やインターネットの情報配信よりも早く、または同時に正しく情報を伝える。
 ●経営者と従業員の間に双方向のコミュニケーション手段を設ける。電子メールや経営者による支店や工場訪問、タウンホール・ミーティング(少人数の寄り合い、集会)の開催など。
 ●社内のあらゆるレベルの組織・社員に統一したメッセージや情報を伝える。
「(人材の流動性が高い米国では)信頼関係や従業員の忠誠心は“当たり前”に存在するものではなく、“一から作り上げていくもの”」―Managing DirectorのRichard J. Wolff氏はいう。そのためには、対従業員コミュニケーションの注意深い戦略策定と、実現のための企業努力が欠かせない。日本企業では伝統的な終身雇用の維持が難しくなり、企業と従業員の間の“契約の拘束力”が弱くなりつつある。米国の状況は、日本企業の近い将来の現実でもある。

衝突する価値観
 コミュニケーションで大切なことは、関係者間の価値観の違いを理解することである。価値観は従業員と経営者、企業と顧客、買収元企業と買収先企業など立場が違えばそれぞれ異なる。コミュニケーション戦略策定の前提は「環境問題、地域貢献、ブランド、顧客満足など、多種多様な問題点に対する関係者の価値観の共通点と違いを理解すること」(Gaudaさん)という。コミュニケーション不足がもたらした最近の事件では、Hewlett-Packard(HP)とCompaq Computerの合併騒動が挙げられる。合併を進めたい経営陣と反対派の間で価値観の違いは広がる一方で、訴訟問題にまで発展した。手続き上は合併したものの、合併後の関係者間の価値観や文化的違いから大きく企業の価値を下げてしまう例も多い。4月1日の発足以降、トラブル続きのみずほ銀行はその一例。直接の原因はシステムの技術的な問題だが、本質は合併3行の文化的違いによる主導権争いがもたらした人為的事故といわれている。M&Aは当事者同士のシステム上の相性、規制問題など様々な要素が複雑に絡み合って成否を左右するが、「自分(自社)の価値観は他人(他社)の価値観と同じ」との誤った思い込みを払拭しきれなかった罪の大きさは無視できない。

使いすぎは禁物
 インターネットや電子メールは社内コミュニケーションの観点から、物理的に離れた事務所に勤務する従業員へ情報を瞬時に伝達し、社内コンセンサスの確立を支援するという点でコミュニケーションの有効なツールである。その一方で、弊害も目立つ。前述したようにチャットや掲示版を利用した新たな情報攻撃の登場である。攻撃のネタを可能な限り少なくするための試みもある。Gaudaさんは「経営陣同士のやり取りでは、電子メール利用を最小限にする。ボイス・メール(留守録電話)も使いすぎないようにする」ことが大事という。エンロン事件では経営陣同士の電子メールが大手新聞の紙面を飾り、HPでは管理職の人間が書いた合併に関するメモがマスコミに流れ、Carly Fiorina最高経営者が上級管理職に残したボイスメールが公開された。いずれも利害関係者間のコミュニケーションが上手くいかず会社に対する信頼感の欠如が根底にあるが、情報漏洩を避けるための最小限の予防策を講じることは大切である。

“やりっぱなし”は“やらない”と同じ
 「結果の測定と評価を伴わない従業員コミュニケーション活動は、やっていないも同じ」とGaudaさん。活動の結果、従業員の業務に対する取り組み姿勢がいかに変わったかを調査して評価し、対策を検討・実行して、はじめて活動は完了する。社内報が読み易くなった、情報量が増えた――などコミュニケーションの手法ではなく、従業員が自由に業務改善に関して意見し、問題提起しているかなど、従業員の変化を測定する。測定にはインターネットを使った「オンライン・サーベイ」など、手間をかけない方法もある。コミュニケーションの戦略策定、実施、結果の測定、結果に基づく新戦略の策定、実施そして再び結果測定――。従業員コミュニケーションは単発的に実施するのではなく、日常的・継続的に取り組んでこそはじめて「当たり前」の過信を打破する道が開けてくる。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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