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100年のライバル統合の舞台裏

公開日:2001年11月1日

 企業間の吸収・合併や買収劇の裏側――合併相手や買収先を選ぶ時、まず優先される条件は、お互いのIT(情報技術)インフラの親和性であるという。企業のIT依存度が高まる中、人事や経理などのバックオフィス・システムから顧客対応のフロントオフィス・システムまで、それぞれが持つシステムのスムーズな統合がなければ、業務の遂行や生産性に重大な影響を及ぼしかねない。ただし忘れてならないのは、ITはあくまで生産性を高めるためのツールの一つであるということ。日々の企業活動を支えるのは、ひとりひとりの従業員に他ならない。合併や買収時に、従業員に正しい情報を迅速に伝えること。Employee Relationsの最も重要な責任の一つである。

100年のライバルが統合へ
 米国中西部のコロラド州。広大なスキーリゾートや、最近では通信事業者やソフトベンダーなど数々のIT関連企業を生み出したことでも知られるこの土地で、100年間にわたって競合してきた新聞2紙が業務統合することになった。統合するのはThe Denver PostとRocky Mountain Newsの2紙。合併や買収とは異なり、新聞購読や広告販売、制作、経理、人事などの共通業務だけを新設する組織の下で統合し、2紙の編集部門は従来通り独立して機能させる「Joint Operating Agreement(JOA)」と呼ばれる方法をとった。2紙は2000年5月に米司法省へJOAを申請し、2001年1月に承認された。新組織の名前はDenver Newspaper Agency(以下、Agency)である。

Agencyの最初の仕事は、2紙の従業員に対してJOAと今後の体制を説明するためのコミュニケーション・プランの策定と実行だった。AgencyはPRコンサルタントのJohnstonWells Public Relations(以下、JohnstonWells)を採用し、JohnstonWellsを中心にプラン策定に着手した。プロジェクトは、(1)事前調査、(2)プランニング(目標・戦略・対象の策定)、(3)実行、(4)評価の四段階にわけて検討した。米国Public Relations専門家の業界組織「Public Relations Society of America」の資料を参考にして、段階別に経緯を紹介する。

(1)事前調査
具体的な目標を策定するために、過去と現状の問題点を調査した。まず過去のJOA事例を調査した結果、多くのJOA事例は失敗に終わっており、従業員の不安をあおっていることがわかった。関係者へのヒアリングや文献調査からその原因を調査し、今回は従業員へのメッセージとして、失敗事例との違いと、JOAによってもたらされる利益に重点を絞ることにした。次に、統合される従業員や管理職メンバーから、個別のヒアリングや小人数のミーティング形式で意見を聞いた結果、多くの従業員が雇用に対する不安を抱えており、JOAプロセスが混乱を招いていることも判明した。また、従業員の業務内容や教育レベルによって関心の対象や度合いは大きく異なり、従業員の「多様性」に着目した包括的なコミュニケーションの必要性が浮き彫りになった。

(2)プランニング
事前調査の結果を踏まえて、下記2点をプロジェクトの目的とした
 ●JOAが企業活動と個々の業務に与える影響に係る情報を、迅速に提供する。特に、2紙を継続することの利点を強調する。
 ●雇用不安やJOA失敗に対する恐怖心を一掃する。

 そのため、「管理職と経営陣に対して、部下への説明を正しく円滑に行うためにプレゼンテーションの訓練プログラムを提供する」「JOA歓迎ムードを高めるメッセージや資料を作成する」「メッセージの迅速な配信プランを作成する」などの戦略を策定した。対象は2紙をあわせた4000人の従業員。従業員の多様性に対応するため、重要なメッセージは英語に加えてベトナム語、ロシア語、スペイン語でも用意した。プロジェクトの予算総額は12万5000ドルである。

(3)実行
メッセージや資料の作成、Agency立ち上げ準備に数カ月を要した。その後、JOA承認、Agency業務開始などのイベント発生にあわせて、電話、電子メール、手紙、ポスターなどを利用して従業員へメッセージを発信し、電話やウエブを利用した問い合わせ受付け窓口を新設した。業務初日にはオープンハウスや施設ツアーを実施し、さらにその場で経営陣から従業員へ宛てた手紙や重要なコンタクト先リスト、Agencyのミッションやビジョン説明などをまとめた資料を従業員へ手渡した。当日は社長兼CEO(最高経営責任者)のKirk MacDonald氏やその他経営陣とのミーティング機会も多く設けた。また管理職以上は、セミナー形式で業務統合プロセスや内容の説明を受けた他、部下への説明を効果的に行えるように、話し方やプレゼンテーションの訓練も受けた。これは経営陣も同じである。

(4)評価
4000人の全従業員が、Agencyの業務開始から4時間以内に前出の資料を受取り、12時間以内に管理職とのミーティング機会を与えられた。JOAが原因で自ら職を去った従業員は一人もいなかったという。Agencyは従業員からの問い合わせ窓口を電話と電子メールで設けているが、雇用や業務に関する内容は全体の僅か10%だった。Agencyの設立から業務開始まで、継続したメッセージ発信の効果が現れた結果といえる。

JohnstonWellsのGwin Johnston社長兼CEOは同プロジェクトを、「広範かつ綿密な準備と、それに裏打ちされた迅速なプランの実行が成功の鍵でした」と振り返っている。

■ ライター : 大村智子(ニューヨーク在住)

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