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神谷町ではたらく広報マンの独白(16)「期待権」に関する最高裁の判決について

公開日:2008年7月28日

「期待権」に関する最高裁の判決について

前回のこのコラムで取材を受ける側からの報道に対する「期待権」について書いたが、そのコラムがメルマガで配信されたのが6月中旬であった。
翌日の新聞で知ったのだが、まさかその日に「期待権」をめぐる最高裁の判決が行われていたとは、まったく考えていなかった。

最高裁の判断

2008年6月12日、最高裁はこの問題についてわが国の司法における最終審としての判断を示した。
結果は、訴えを起こした市民団体側の逆転敗訴である。 今回の判例は、報道機関の有する「編集権」の強力さをあらためて認識させる結果となった。
― 事情をご存知のない読者のために、あらためて振り返ってみる。
戦時下における従軍慰安婦問題をめぐり、2001年に放送されたNHKのあるドキュメンタリー番組について、取材を担当した制作会社が、取材を受けた市民団体との約束に反し放送直前に一部の内容を変更して番組を作成した。
内容の変更を求める政党の圧力の有無の問題もあり物議を醸したのだが、取材を受けた市民団体の期待と信頼を裏切り、「期待権」侵害したとして東京高裁では市民団体への200万円の損害賠償を認めた。
一審の東京地裁でも2004年には同様な判断のもとに、取材を受ける側からの「期待権」を支持する判決が下されていたのである。
この一連の裁判は、報道機関の強力な「編集権」に対して一定の歯止めをかけることが可能かを問うケースとして注目されていた。
結果的には、最高裁は地裁、高裁の判決を取り消し、「期待権」そのものを全面的に否定したのである。判決文にも「期待権」という言葉は使用されておらず、「期待権」に関する主張はまったく法的根拠を失ってしまった。
取材を受ける側の意向が反映されるには厳密な要件にしたがうことを必要としており、「編集権」にもとづき活動を進める報道機関側のほぼ全面的な勝利といってもよい。

広報活動への影響

では、今回の最高裁の判決は、今後、企業の広報対応にどのような影響を与えることになるのだろうか。
今回の判決を聞いてほっと安堵したのは、おそらくテレビのドキュメンタリー番組を制作するプロデューサーやディレクターのように、番組の企画制作に深く携わる人々と思われる。
一般に事実をストレートに扱うニュース報道と異なり、ドキュメンタリーはプロデューサーやディレクターの制作意図にもとづくストーリーで構成されるからだ。
ドキュメンタリーの取材を受けるにあたっては、これらの人々から番組の企画書をもらい制作意図を確認することから始まる。
そして、取材の流れの中で当方がどのように取り上げられるのか、また他社はどのように扱われ当社側とはどのように対比されるのかを検討する。
そして制作意図や趣旨に賛同し、その上で当方に対する扱い方への希望を述べ、了解を得ることが取材を受ける前提条件である。
あくまで、当方の意図が反映されることが、重要な要件だ。
ここで、広報側の意図が制作に反映されることを、法的な権利として裏付けるのが「期待権」であった。
ところが、この「期待権」の存在が法的に否定されたことにより、制作内容に法的な視点から要請を行うことが不可能になったのである。
ドキュメンタリー番組の制作におけるストーリーは、取材を進める過程で多かれ少なかれ変更されることは常であろう。ケースによっては、当初、構想していた結論からまったく別の内容に変わってしまうことも珍しくない。
そして、この変更は報道機関の「編集権」にもとづくものとして正当な権利として主張されてきた。「期待権」が否定されることにより、この主張はますます勢い付くことになるだろう。取材を受ける側の期待にはかかわらず、報道側のストーリーにより取材された内容は如何様にも扱われるということだ。
広報の側にとっては、取材を受けるリスクが倍加したことを意味する。

広報担当者の心がまえ

前回も述べたが、広報担当としては、報道関係者との信頼関係をベースに対応をはかることが基本である。その上で、事実関係の正確な報道という観点を除けば、「期待権」という法的な根拠には、もはや頼ることはできない。
また広報に関する方針やスタンス、報道意図の変更を想定したストーリー展開についてシュミレーションを行い、それぞれのケースに対するリスクの許容度を検討し、広報的なメリットとデメリットを総合的に判断した上で、やはり個別に対応せざるをえないだろう。
「期待権」に関する今回の最高裁の判決以降、取材対応においてはますます慎重な対応が広報担当に求められる時代となった。

神谷町の広報マン 愛称:マーベリック
外資系IT企業で広報マン17年、PR系企業におけるコンサルタント生活3年を経て、現在は神谷町にある金融会社にて広報を担当。広報マンとして20年余を過ごす。広報の仕事と、赤ワイン、クルマ、そして年に数回に過ごす軽井沢での静かな生活をこよなく愛する。独自の視点から広報を語り、広報の仕事に携わる後進の成長に貢献したいと考えている。


■神谷町ではたらく広報マンの独白

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