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神谷町ではたらく広報マンの独白(15)テレビ取材と「期待権」

公開日:2008年6月20日

■テレビ取材と「期待権」

以前、このコラムでテレビの取材を受ける時の難しさや、問題点について触れたことがある。実際に自身が経験してみてあらためてその難しさを感じさせられたので、今回はそのことについて触れたい。
「テレビ取材の対応はどこが難しいのか」(08.3.18)

■取材を受けたテレビ報道

私が数か月前に関与した取材は、あるテーマのもとに会社の事業を取り上げる報道番組の特集が目的であった。約30分の特集における10分程度の部分で、同様の事業に携わる数社の概況や戦略を取り上げる内容である。
取材を受けるにあたっては、当然ながら綿密な準備を行った。まず企画書をもらい番組の意図を確認、取材の流れの中で当方がどのように取り上げられるのか、また他社はどのように扱われ、当社側とはどのように対比されるのかを聞いた。
基本的に趣旨に賛同し、その上で当方に対する扱い方について期待を明確に述べ、それについては了解したとの対応を得た。当方としては取材を受けることを正式に決定し、事前準備を整え、取材当日に臨んだ。
このような対応はテレビ取材に対する基本的な取り組みとして、多くの企業でも同様に行われていることだろう。これで制作側の編集が完了し、放送日を迎え、期待通りの内容が放送されたのであれば、広報としての仕事は一件落着となる。
ところが、結果からいうと放送された内容は、必ずしも当方の期待に沿ったものではなかった。ディレクターが他社の取材を重ねていく過程で、当初考えていたシナリオの変更が行われたのである。
方針の変更の連絡が担当のディレクターから電話で簡単にあり、それに対して当方の考えや期待も伝えた。再取材の要望も伝えたのだが時間的にも厳しく、それは実施できなかった。
もはやこうなると、当方からはまったくタッチできない世界で制作が進められる。収録した素材の編集を放送局の中で行い、予定された当日に放送された。
残念ながらやはり最初のストーリーとは少々異なり、当方の要望に対して一定の配慮はみられるが、当方の期待とは離れたものとなっていた。

■「編集権」と「期待権」

わが国では、「表現の自由」を基盤として「言論や出版、報道の自由」が憲法で保障されている。いわゆる民主主義の根幹を支える仕組みだ。報道機関は強力な「編集権」を持ち、取材した内容については、それが事実である限り、かなり自由に公表が許されている(制約要件としては、個人のプライバシー保護への配慮などだ)。
ただ、報道機関は取材した内容については、「編集権」を錦の御旗として無制約に報道できるのか?この問題について議論を起こした東京高裁の控訴審における判例がある。
戦前、戦時中における従軍慰安婦問題をめぐり2001年に放送されたNHKのあるドキュメンタリー番組なのだが、取材を担当した制作会社が、取材を受けた市民団体に約束に反して一部の内容をカットして番組を作成した。政党の圧力の有無の問題もあり物議を醸したのだが、市民団体の報道への期待権を侵害し、一定の損害賠償を認めた判例である。
最高裁で未だ係争中と思われるので、法的な判断に決着がついたとはいえないのだが、報道側の編集権に対し、一定の歯止めをかける事例として、注目された。

■あるディレクターのコメント

先日、数々のドキュメンタリー番組の制作を担当したNHKのあるディレクターの講演を聞く機会があり、報道に対する期待権に関して、放送局として、あるいは個人としてどのような見解を持っておられるか質疑応答の時間に尋ねてみた。
回答では、局としての統一的な見解は現時点では存在しておらず、ディレクター個人による判断によりケースに応じて対応されているとのことだ。一ディレクターとしては取材を受ける側の意向は、尊重されるべきと、一定の配慮も示していただいた。
ただ、回答の冒頭に、「期待権が明確に認められるようになったら、ドキュメンタリー番組の制作はできなくなる」と明言された。
報道側にとっても、期待権はやはり重要な問題として認識されているようである。

■ケース・バイ・ケースの現実的な対応

自社の意向の反映を望まざるを得ない広報担当としては、法的根拠に頼るのではなく、信頼関係をベースに取材依頼への対応を行うことがベストである。
ただ、大報道機関の影響力を背景に初対面の人間から依頼を受けても、先方の話を100%鵜呑みにして対応することもできないのも確かである。
広報パーソンとしての”人間力”も大きいのかもしれないが、人を見極めながら、また会社の広報に関する方針やスタンス、リスクの許容限度、さらには問題が発生した場合の法的な対応の可能性も考慮しながら、やはりケース・バイ・ケースで、対応せざるをえないように思えるのである。
※2008.6.12
NHKなどに200万円の賠償を命じた、二審・東京高裁判決を取り消し、市民団体の請求を棄却。NHK側の逆転勝訴が確定している。

神谷町の広報マン 愛称:マーベリック
外資系IT企業で広報マン17年、PR系企業におけるコンサルタント生活3年を経て、現在は神谷町にある金融会社にて広報を担当。広報マンとして20年余を過ごす。広報の仕事と、赤ワイン、クルマ、そして年に数回に過ごす軽井沢での静かな生活をこよなく愛する。独自の視点から広報を語り、広報の仕事に携わる後進の成長に貢献したいと考えている。


■神谷町ではたらく広報マンの独白

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