コラム

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危機事例検証の難しさとは

2008年04月17日

news2u:tomioka


危機事例検証の難しさとは



広報・危機管理コンサルタント
平能 哲也 氏

平能 哲也


危機管理広報に関する業務の中で、企業の広報担当者が通常業務の中で行えるのが「他社の緊急時広報(以下クライシスコミュニケーション)の事例検証」である。実際に新聞やインターネット記事の中で、企業の事件、事故、不祥事の記事を必要に応じて収集している企業の広報担当者もいらっしゃるだろう。


自社の危機管理広報のチェックリストとしても、他社の事例検証は非常に重要であり、参考になることは間違いない。特に、同業他社の事例検証は企業の広報にとって必要不可欠なものとなる。


事例検証の方法としては主に以下のような作業があげられる。

・新聞記事の収集
・TVニュース等の録画(特に、緊急記者会見の様子)
・インターネット上の危機発生企業のHP(プレスリリースやステートメント)
・新聞の謝罪広告の収集

また、単に収集するだけでなく、できれば、危機の内容(例:製品回収、工場事故、情報漏えいなど)によって分類しておくとよい。これは不幸にも自社に同様の危機が発生した時に、対応を考える上で一定の参考になる。


事例検証は、危機管理広報において重要なものだ。しかし、すべてが明確にわかるものではない。つまり、メディア報道や危機発生企業のインターネットでの情報発信内容を収集し分析しても、他社の危機発生からクライシスコミュニケーション対応のすべてを詳細につかむことは困難であろう。


一般的に明らかになる情報とは

・発生した危機の概要(時間、場所、内容)。初期の段階では原因は調査中のケースが大半
・危機発生企業がとった初期対応と、それに対する評価、例えば遅い対応だったとの批判など
・緊急記者会見の一部内容
・危機発生企業がHPや謝罪広告で発信するステートメント

などである。
緊急記者会見もTVニュースで放送されるのは、放送時間の関係で冒頭の謝罪の部分と、質疑応答の一部のダイジェストが大半であり、自社のHPで緊急記者会見をすべて動画で流す、といったケースも除いて、危機発生企業の緊急記者会見のすべても見聞きする機会はほとんど無いといってよい。出席者に失言などがあった場合に、メディア報道でそこだけ強調して取り上げられることで、記憶に残ることが多いのである。


さらに、最も情報収集が困難なものは、危機発生企業における危機管理、及び危機管理広報対応の詳細なプロセスである。緊急記者会見があったとすれば、危機発生から緊急記者会見までの企業内部での様々な意見のやり取りと言い換えられる。


例えば、企業がみずから公表する、または内部告発によってしか明らかにされないデータ偽装のような不祥事の際は、「メディア(=社会全般)に対して不祥事を公表するか、しないか」といった議論が起こったことも十分想定できる。ただし、これは企業秘密に当たる部分であって、企業側が積極的に情報公開することは考えにくい。


また当初の報道では

・発生した危機の内容の事実関係と原因
・メディア対応を含めた危機発生企業の初期対応
・一般消費者や地域住民や顧客といったステークホルダーに対してどんな不利益をもたらすか

などを報道するのがメディア取材の主眼になる。
危機管理広報の観点から、クライシスコミュニケーション対応のプロセスは以下の3つに分類できる。


1.経営トップや取締役等が、広報部門の意見等にまったく耳を傾けず、独自の判断で対応。広報機能がまったく働かないケース

2.広報部門が中心となって、経営トップや取締役等に対して適切なアドバイスを行い、広報部門と一体となって対応するケース

3.広報部門の依頼で外部専門家(コンサルタント、弁護士、PR会社、広告会社など)が起用され(日常的に契約しているも含む)、第三者の客観的な視点で経営トップや取締役等に対して対応のアドバイスを行うケース


以上の点は、メディアの対象である読者や視聴者等にはあまり関心の無いことであろうが、企業の広報担当者にとっては非常に重要な検証ポイントとなる。


それは何故か。「企業の危機対応、特にクライシスコミュニケーションの失敗例」を分析する時に欠かせない重要な要素だからである。


上記の3つの分類は、さらに2つずつに分ける必要がある。それは、「無難にすんだケース」「失敗したケース」である。成功したではなく無難にすんだと表現するのは、危機が発生したのであるからクライシスコミュニケーションが上手くできたとしても成功という言葉で評価するのは不適切だと考えるからだ。


ここ数年、新聞や雑誌やインターネットでも「クライシスコミュニケーションの失敗を防ぐポイント」といったタイトルの記事や特集を目にする機会があった。あくまで私の感想だが、意見は次のように集約できると思われる。


「危機発生時に経営トップは広報部門を活用し、さらに企業に属さない外部専門家の客観的なアドバイスを求めるべきだ。そうすればクライシスコミュニケーションの大きな失敗は防げる可能性が高い」
その種の記事は外部専門家が執筆されていることが多いので、当然ながら、外部専門家のメリットを説明していることが多い。私も外部専門家の一員であるから、その意見は大筋で理解できる。


しかしあえてプロの目で疑問点をあげれば

・これまでの数多いクライシスコミュニケーションの失敗例の中には、広報部門や外部専門家が関与しても上手くいかなかったケースもあるのではないか
・さらに言えば、広報部門や外部専門家の不適切なアドバイスや対応が原因で、企業の被害をさらに拡大させたケースもあるのではないか

である。これはあくまで想像の話だが、十分あり得ることであり、また噂のレベルでは私も事例を聞いたことがある。


この場合の失敗は、広報部門及び外部専門家の能力不足だと断言できるだろう。しかしながら広報部門の対応や外部専門家のスキルを検証するといった記事を私は見たことがない。


その理由は前述のように公表されない(しない)情報であり、また検証する方法論が欠如しているからであろう。失敗例の原因としてよく指摘される経営トップの姿勢や企業の隠蔽体質といったことに加えて、広報部門や外部専門家の対応が適切だったかどうかも十分に検証する必要があるのである。それが無ければまた同じことを繰り返すリスクが高い。


他社の失敗例を教訓にして、自社の危機管理広報に生かすのであれば、他社の失敗例をより詳細に具体的に分析することが求められる。しかし残念ながら、それは非常に難しい作業なのだ。

広報・危機管理コンサルタント  日本広報協会広報アドバイザー 平能 哲也 氏


1958年東京生まれ。学習院大学を卒業後、PR会社に16年間勤務。1998年にフリーランスの広報・危機管理コンサルタントとして独立。企業や自治体等で以下のような業務に従事。


<危機管理関連>
危機管理コンサルティング、危機管理・防災シミュレーショントレーニングの企画・実施
危機管理・防災マニュアルの作成、情報セキュリティポリシーの作成
危機管理セミナー、研修の講師
新型インフルエンザ対策シミュレーショントレーニング、セミナーの企画・実施
新聞、雑誌等への寄稿


<広報関連>
広報コンサルティング、メディアインタビュートレーニングの企画・実施
模擬緊急記者会見トレーニングの企画・実施、広報マニュアルの作成
広報セミナー、研修の講師
主な著書に、「実践!ネットワーク社会の危機管理」(竹内書店新社)、「苦情対応システム リスクマネジメントマニュアル」(通産資料調査会:共著)などがある。
また行政広報専門誌「月刊広報」で「広報担当者のための危機管理塾」を連載(2004年12月号 - 2006年3月号)

 

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